明日はもっと良い日になるよね 公太朗

人生の備忘録をつらつらと…

コロッケを溶かした話

 

ジメジメする。

セミは五月蝿いし、クーラーがオフになるタイミングなんて無いくらいに蒸し暑い。

冷房と除湿、冷え過ぎたり、ジメジメしたりいい設定が全然わからない。

そんな梅雨の終わりにコロッケを溶かした。

 

そもそも

話は遡ること、一ヶ月程前。

両親の家からもらったカボチャが余りにも大きく、どう料理するか悩んでいた。

妻がカボチャスープにしたが、カボチャ自体の味が薄く、淡白な味になってしまったらしい。

どうやらあまり美味しくないカボチャのようだ

 

まだ半分も残っている

どうしたものか…

そうだ、煮付けにすれば良い。

味が染みるし、美味しくなるだろう。

大きな鍋いっぱいに一口サイズに切られたカボチャを入れ、醤油、砂糖、酒、味醂を適量入れ、火にかけ放置した。

グツグツ煮立つ鍋は梅雨の季節には鬱陶しかったが、何よりもカボチャを無駄にせず料理している事に満足していた。

 

カボチャはスムーズに煮付けにされた。

味見の為に1つ食べてみる。

んー

あれー

美味しくない…

やはり、美味しくないカボチャは煮付けてもダメ。

野菜の旨味がない、調味料を吸ったモチャモチャした何かだった。

 

これはまずい。

ダブルの意味でまずい。

鍋いっぱいに作ってしまった。

この量は流石に美味しくないと、食べ切れない。

冷凍するか悩んだが、その日は鍋のまま冷蔵庫にぶち込み、問題を先送りにした。

 

次の日、カボチャを4つ小さな小皿にうつして、レンジで温めて食べる。

美味しくない。

流石に一晩寝かしたカレーの様な、美味しさマジックは起こらなかった。

冷蔵庫で冷やされた大量のカボチャの煮付けが入っている鍋を、腰に手を当てながら眺める。

これは困った。

 

私は食べ物は粗末にしたくないタイプである。

大盛りの懐石料理でも残さず食べるし、おばぁちゃんが作っている様な、お弁当に入っている豆を甘く煮たものも我慢して全部食べている。

特に今回は腐らせた訳でもないし、なんなら調味料を追加して料理している。

これを捨てるのは流石にできない。

どうしよう

そうだ、肉じゃがをコロッケにしている料理を見た事がある。

煮物をコロッケにしているのだ。

肉じゃががコロッケになるなら、カボチャの煮付けもコロッケになるはずだ。

これは妙案だ!!

いけるぞ!!

 

コロッケ作り開始

しかし、不安がある。

コロッケなんて作ったことない。

しかもパン粉とかを使うと思うけど、あるかわからない。

 

時間は既に夜の9時、

今からコロッケなんてそもそも作れるのか?

明日も仕事だし、子育てに家事もある。

今から買い物なんて行きたくない。

店も開いてるか分からない。

 

…やってみるか?

 

最近私は、油で揚げる料理に対しての抵抗感が少なくなっていた。

昔は、コンロに飛び散った油の掃除、鍋に残った使用済み油の処理、面倒くさいと思ってマイナスイメージがあった。

しかし、最近美味しい冷凍食品を見つけた。

揚げるだけのアジフライ。コレが美味い。

この為に最近は油を使っている。

しかも最近やっと気付いたが、油ってそんなに高くない。

よくある大きなボトルで200円ちょっと。一回の料理に使う量なんてたかが知れてる。

何てお得なんだ。

その気持ちからか、コロッケを作る事に対して前向きな気持ちになりやすかった。

 

その前に確認する。

パン粉がなきゃ始まらない。

キッチンの粉物置き場を探る。

ここにパン粉が無ければ今日はやめよう。

何かにつけて、辞める理由を探している。

自分の意志の弱さに驚いた。

 

あった。

なんという事だ。

辞める理由がなくなったじゃないか。

開封されているが、大きな袋に半分ほど残っている。

今回の料理にはちょうど足りそうなパン粉があった。

 

仕方ない、さっそく料理にかかろう。

時間が無いのだ、ただでさえ遅い晩御飯が深夜になってしまう。

これは避けたい。

スマホを取り出し、クックパッドを開く。

まずはこれ。最近料理する様になったとはいえ、これを手放してする程、調子には乗っていない。

 

検索

カボチャ コロッケ

すぐに出てきた。

ひき肉と玉ねぎのみじん切りを炒めて、カボチャと混ぜる様だ。

冷凍室に半分残っていた冷凍のひき肉を鍋で炒めながら、玉ねぎをみじん切りにする。

玉ねぎも炒める。

 

料理は問題なく進む。

カボチャをブレンダーで混ぜるが、刃とカバーの隙間に入り込んで全然混ざらない。

少量混ぜては、取り出し、処理混ぜては、取り出し…

とても時間が掛かった。

なんて事だ、ひき肉と玉ねぎはとっくに炒め終わっている。

こんな事ならマッシャーで潰せば良かった。

しかし、後悔先に立たず。適切な器具の使い方を学べたと思って先を急ぐ。

 

次はコロッケのタネだ。

さっき作った、ひき肉玉ねぎと、カボチャを混ぜる。

急ぎなので手袋などない。

ぬちゃぬちゃと気持ち良い様な、気持ち悪い様な、いつもはあまり感じない感触のカボチャを素手で混ぜる。

タネはうまくできた。

すでに美味しそうだが、煮付けの前例があるため、まだ安心できない。

早る気持ちを抑えながら、底3センチ程に溜めた油の鍋に火をかけた。

良い温度だ。

パン粉は皿に用意した。

あげた後に油をきるバットも用意した。

 

さあ、揚げるぞ!

手早くコロッケを手でまとめると、パン粉を全体にまぶした。

パン粉が落ちない様に素早く鍋の上に持っていく。

油が跳ねて火傷をしない様に一瞬タイミングを計る。

先にコロッケからこぼれ落ちたパン粉がカラカラと揚がっているのが見える。

よし、問題ない。

私はサッとパン粉のついたコロッケを鍋に滑り込ませた。

泡が出て、カラカラと音がする。

良いぞ、良い調子だ。

 

ここまで1時間以上かかっているが、初めてのコロッケだ。

ぎこちないがスムーズにできている。

なんだか楽しい。

私には料理の才能があるんじゃないだろうか。

 

などと思って鍋を覗くと、驚いた。

油が茶色くなってきている。

というか、コロッケと油の境界線がぼんやりして、コロッケが崩壊してきているではないか。

何故だ、何故かおかしな事になっている。

 

コロッケが溶けている…

何とかしたいが、油を大量に使う料理なので慌てると家事になるかもしれない。

ここは慎重に。

火を止めるか?コロッケを取り出すか?

取り出す?形が無いのに?

どうしよう。

このまま揚げてこのコロッケに未来はあるのか?

 

などと考えている内に30秒ほど、崩壊しながらコロッケが、揚げられている。

というより溶けている。

とりあえず火を止めた。

 

しばし鍋を見つめ、また腰に手を当てて考える。

面倒くさい。

コロッケなんて作らなければ良かった。

すでに後悔している。

 

熱々の油に溶けたコロッケ。

どう処理しよう。

食べれるのか?

いや、流石にこれは無理だ。

何でも食べる私だと言っていたが、腐っていたり、失敗したらすぐ捨てる。捨てる理由があれば良いのだ。所詮はエゴだ。

割り切ろう。

 

油が冷えるのを待った。

とりあえず、近くに束ねてあった新聞紙でゴミ箱を作る。

昔からミカンの皮を捨てるときに、チラシを紙風船の様に折ってゴミ箱を作っていた。

おばあちゃんから教えてもらった知恵だ。

受験で自習していた時も、A4の紙でゴミ箱を作り、消しクズをまとめていた。律儀なやつである。

そんな経験もあり新聞紙でのゴミ箱作りには何故か自信があった。

 

 

手際良くゴミ箱を作ると、油コロッケをそれに流し込んだ。

食材を粗末にするのはやはり気が引ける。

バツが悪いのを隠すかの様に、素早くほぐした新聞紙で更に油を吸わせ、新聞紙ゴミ箱の口を閉め、丸くまとめて捨てた。

 

なんだかなー。

おばあちゃんのゴミ箱を思い出す事で、油コロッケを捨てる罪悪感を少しでも和らげようとしているのかもしれない。

 

卑しい人間だ。

どうやら私は失敗をするとネガティブになってしまう様だ。

自分の弱さを再確認することができたと考えよう。

そう、ポジティブに考えよう。

 

そんな事を考えながら、汚れた鍋をしっかりと洗浄し、コロッケを揚げる前に戻った。

この時点で1時間半掛かっている

時計は11時を過ぎている。

いい加減もう終わらせたい。

 

とりあえず何が原因だったのか、手順をクックパッドで確認する。

あった。

原因を見つけた。

パン粉の前に、小麦粉と溶き卵に浸さないといけないんだ。

パン粉さえ付けて揚げればコロッケになると思っていた。

そういえば、テレビ番組でトンカツを揚げる前にも卵やら、小麦粉やら、そんな手順だった。

今更思い出した。

 

なんだってんだ。

まずクックパッドを見て確認する初心者だと言ったいたのにもう料理人気取りだ。

私は馬鹿だった。

手痛い経験だったが、これで2度と同じ失敗をすることはないだろう。

何でもポジティブに考えるのが私のポジティブなところである。

 

そんなこんなで小麦粉と溶き卵を用意した。

手際良く、小麦粉、卵、パン粉に浸して油に入れる。

今度はうまくいった。

嬉しい。

カラカラとコロッケが泡を立てて揚がっている。

鍋にスペースがあるので、続けて2個目、3個目を投入する。

鍋の表面は埋まった。

 

後は待つだけだ。

その間にパン粉で汚れている手を洗う。

コロッケと同じ回数、小麦粉、卵、パン粉に浸している指。どちらがコロッケか分からない位パン粉まみれだ。

パン粉が流れすぎて、排水ネットが詰まった。

排水されずにシンクに汚い水が溜まっていくじゃないか。

面倒くさい。

 

何て手間の掛かる料理なんだ。

コスパに合わない。

手数が多すぎる。

 

カボチャを潰す。

混ぜる。

パン粉をつける。

揚げる。

潰した時点で、ポテサラならほぼ完成だし、冷凍アジフライなら揚げるだけで終わる。

普段の料理ならこの工程の中で3品はできている。

 

そもそもコロッケなんてあまり好きではない。

嫌いではないが、手間が掛かるし、何より唐揚げやトンカツの方が美味しいに決まっている。

 

そんな事を考えつつ、ルーティン化されたコロッケ揚げ運動を数回繰り返し、ようやく料理が完成した。

平日の夜中に2時間かけて、大量の汚れた食器とコロッケ10個と、油まみれの男が出来上がった。

 

酷く疲れた。

もう23:30 を過ぎている。

通常なら寝ていてもおかしくない時間だ。

俺は何をしているんだ。

 

そんな事を思いつつも、失敗から軌道修正して完成させたコロッケは誇らしい。

少し揚げすぎたものもあるが、それも味。

今は疲労感と達成感で満たされている。

 

試しに1つ食べてみた。

 

美味い。

本当にうまい。

コロッケってこんなに美味かったのか。

味のしないカボチャに、ひき肉の旨味がうまく合わさっている。淡白なカボチャもひき肉や玉ねぎと合わせる事で、ここまでうまくなるのか。

サクッと揚がった衣も食感が楽しい。

素晴らしい!

コロッケとはこんなに凄いものだったのか!

 

コロッケが好きになった。

単純なものである。

でも好きになったのだから仕方ない。

ここで強がって、まぁまぁかな、などと言う方がまだ幼稚な気がして恥ずかしい。

 

これは大作ができた。

晩御飯が遅くなって申し訳ないが、妻にも失敗したエピソードと共に美味しく出来上がったコロッケを食べてもらいたい!

 

深夜の晩御飯

すっかりコロッケ作りに集中していた私はウキウキで電子ジャーから白ご飯をお椀に盛っていく。

リビングに行くと、誰も見ていないTVだけがついていた。

寝室を確認すると、妻と子供はすでに寝ていた。

 

当たり前である。

平日の夜に2時間も掛けて晩御飯を作るやつなんて待てるはずがない。

申し訳ない気持ちになりつつも、高ぶる気持ちには逆らえない。

妻を起こし、晩御飯を食べるか聞く。

寝ぼけ目ではあるが食べると言っている。

 

急いで準備し、一緒に食べた。

結果ご飯は美味しかった。

妻も寝ぼけて食べていたが、美味しいと言ってくれた。

 

寝よう

よし。

今日はよくやった。

もう寝よう。

よく頑張った俺は。

 

マッチポンプな感じはするが、困難を乗り越えて、満足いく料理ができた。

決められたルートではない、このライブ感。

答えを模索していく感じが何ともたまらなく楽しかった。

 

そもそもカボチャをうまく料理したいところから始まったこのコロッケ作り。

料理を更に別の料理に昇華させることなんてした事ない。失敗こそしたが、閃きが最終的に正解だったことが嬉しかった。

 

こんなきっかけでもないとコロッケ何て一生作らなかった。

コスパは悪いけど、いい経験だった。

効率的ではない学びの方が、思い出として蓄積されやすいのかもしれない。

 

料理とコロッケが前より好きになった。

 

次は何に挑戦しようかな。

 

 

終わり。